2018年の5月の終わり頃、Etsyは社内でエンジニアリングのキャリアラダー (Career Ladder) を発表しました。 現在では、広く一般にこのラダーを公開しており、私たちがなぜこのようなものを作ったのか、なぜこの内容になったのか、そして発表以降どのように活用されてきたのかを詳細化しています。
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キャリアラダーの定義
キャリアラダーは、企業内におけるエンジニアの成長パスを描くのを助けるツールです。 エンジニアが最良の状態で新たな職務を担うにはどうすればよいかの指針を提供し、彼ら彼女らのマネージャーがそのパフォーマンスや振る舞いを評価、また監督できるようにすべきものです。 よくできたキャリアラダーは、キャリアの前進が、企業文化やビジネスの目標およびガイドの原則に寄り添うようように作られており、採用やトレーニング、そしてパフォーマンス評価を導くリソースとしての役割も果たします。
Etsyは、今回以前にもいくつかのキャリアラダーの形を設けていました。 以前のキャリアラダーはEtsyの全ての従業員に適用されるもので、あらゆる従業員に対し、全ての原則について同じレベルの期待内容のセットを定めていました。 総じて、以前のラダーは小さな企業だったEtsyに対してはうまく機能しましたが、エンジニアリングチームが成長を続けるにつれ、その内容を実践的な期待に応えるものへアップデートする必要があると私たちは気づきました。従来のラダーの内容は幅広すぎて、具体的なアクションに落とし込めないように感じられたからです。
その結果、私たちはエンジニアリングに特化した、このキャリアラダーを開発しました。期待内容をより明確化し、Etsyにおいて一定のレベルのエンジニアになるとはどのようなことなのか、統一された見解を作り上げるためです。このラダーが発表されてから1年あまりになりますが、その間にもパフォーマンスレビューや昇進のサイクル、たくさんの採用、そして1-on-1のキャリア開発に関する会話が行われてきました。私たちはEtsyのエンジニアリングのキャリア開発に有意義な改善ができたと自信を持って言えますし、このキャリアラダーを一般に公開することで、他の企業においてもエンジニアリングのキャリア成長をサポートする上で役立てていただければ幸いです。
Etsyにおけるエンジニアリングのキャリアラダーをデザインする
私たちは、様々なレベルのエンジニアやエンジニアリングマネージャーを集めて、新しいキャリアラダーのイテレーションを作り上げるためのワーキンググループを結成しました。ワーキンググループにはMiriam Lauter、Dan Auerbach、Jason Wain、そして私 (Ryan Bateman) がメンバーに含まれていました。まず私たちは、当時の全社的なキャリアラダーを研究することから始め、その利点と限界、またそれがエンジニアリングのキャリア開発にどのような影響をもたらしたかを議論しました。新しいバージョンのラダーがEtsy独自のものである必要があることを理解しつつも、私たちは一般に公開されている他社のラダーを調査することに時間を費やしました。戦略的なアプローチと採用可能なフォーマットを理解する上で、似たようなプロセスを踏んできた企業を参考とするためです。 とりわけSpotify、Kickstarter、Riot Games、そしてRent the Runwayには、彼ら彼女らのプロセスと結果に対する洞察を提供してくださったことを感謝します。これらの企業の資料をレビューすることの価値は計り知れないものでした。
私たちの最初のステップは目標を共有するうえで互いの認識を合わせることだと定め、いくつかの演習を実施した結果、草稿作成のプロセスを促進し、内容の有効性を評価するうえで有意義な方法をもたらすような一連の理念が生まれました。 これらの理念は、ラダーを開発する上での我々のアプローチの基礎を定めました。
キャリアラダーの理念
エンジニアにとって有意義なキャリアの成長をサポートする
私たちのキャリアラダーは、社内のあらゆるエンジニアに対し方向性を示すうえで、十分に明確かつ柔軟なものでなければなりません。 私たちは、このドキュメントが確かな影響力のある形でキャリアを発展させられるよう、具体的なアクションに落とし込めるステップを提供することを念頭に置いています。 理想的には、エンジニアたちがこのラダーを利用してEtsyで過ごした時を振り返り「ここで伸ばしたスキルは、このさき自分のキャリアを通じてずっと使っていける」と言えるようなものであってほしいです。
エンジニアリングにおける期待を統一する
特定のレベルにおける期待に応えるうえで必要とされる事柄について、全てのエンジニアリングの部署と足並みを揃える必要がありました。 もし私たちのラダーに自由な解釈の余地がありすぎると混乱を招きますし、特にそれが昇進プロセスに関係する場合はなおさらです。 私たちは、皆が自分のレベルを表現する上で簡潔かつ覚えやすい方法を持ってほしいと考え、どのようにして昇進が発生するのか、また彼ら彼女らが同僚たちとともに何を期待されているのかを正確に理解できるようにしたいと思いました。
有効なキャリアパスの多様性を認識する
たとえあなたが機械学習のモデルを構築していようと、プロダクトのローカライズをしていようと、エンジニアリングには幅広いコンピテンシーに渡るスキルが必要ですし、各チームやプロジェクトはそれぞれに強みを持った人材を採るものです。 私たちは規律について信じること、すなわち有効で意味のあるキャリアパスは、異なる視点や能力を携えたエンジニア達のあらゆるレベルにおいて存在するのだということ、そして誰もがエンジニアとして同じように成長するわけではないのだということを、明確化したいと思いました。 私たちが幅広いコンピテンシーにおける成長に価値を置くこと、また全ての人がキャリアにおける特定の時点において同じ一連の強みを持つとは想定しないことを、明文化するよう意図したのです。
成功を認識するにあたり、バイアスの発生する余地を制限する
キャリアラダーは、組織における潜在的なバイアスを和らげるのを助けるツールのうちの一つです。 私たちは自分たちの使う言葉に思慮深くある必要があり、インクルーシブで客観的、そしてアクションにつながるようなものにしなければなりません。 キャリアラダーは、採用や昇進のように主要なキャリア進展時の礎として利用されるものですので、こういったプロセスにおける潜在的バイアスを和らげるうえで、明確で一貫性のあるラダーを開発することが欠かせません。
Etsyにおけるエンジニアリングのキャリアラダー開発
これらの理念を念頭に、成功に必要なものはなにかを知るべく、私たちは最初の一歩を踏み出しました。 ラダーの草案フォーマットを作成するのに加えて、どのようにしたら自分たちの成し遂げた改善を定量化できるかの見極めに取り掛かったのです。 私たちはエンジニアリングのリーダー層、人事、従業員のリソースグループ、そしてもちろんエンジニアといったステークホルダーを直接巻き込む必要のある、主要な領域の要点を押さえました。 ラダーの使い手となるような、昇進したいと考えているエンジニアや、昇進に向けてエンジニアをガイドしたいと考えているマネージャー、あるいは建設的なパフォーマンスフィードバックをする必要のあるマネージャーなど、複数の視点を盛り込むようにしています。
暗黙のバイアスは、これらのプロセスに潜んでいるのを認識すること、取り除くことが難しいことでよく知られており、そのためには可能なかぎり多くの個人から受けたフィードバックを直接組み込む必要があると、私たちは考えました。内部の人からも外部の人からも、専門領域や規律を超えた、幅広い視点をラダーに組み入れられるようにです。
私たちの前進を計るための戦略には、フィールド調査とオープンなフィードバック提供のお願いが含まれ、加えて1対1での深掘りフィードバックセッション、そして私たちの言葉が成長志向であり、かつ慣用的表現に陥っていないかの監査が第三者によって行われました。 内容の構造や成り立ち、ラダーの詳細な解釈、キャリアの議論の指針とするうえでのラダーの使い道、そして私たちの理念との連携度合いについてフィードバックを受けたのです。
受けたフィードバックは、ラダーを形作る上で欠かせないものでした。 重複や、不要なもの、また混乱を招く内容を取り除くことを助け、さらには私たちの明言している理念に沿っており、かつ意図通りに伝わると思えるような形のフォーマットを作ることを助けてくれました。
そしてようやく、Etsyのエンジニアリング・キャリアラダーです。
Etsyのエンジニアリング・キャリアラダーの最終版はこちらです。
Etsyのエンジニアリング・キャリアラダーは二つのパートに分かれます。 レベルの進行度とコンピテンシーのマトリックスです。 この構造は、エンジニアリングにおける各レベルの定義を保ちつつ、Etsyがどのようにして多様なキャリアパスを運用するのかを明確にします。 レベルの進行度はキャリアラダーの根幹を成すものです。 各レベルに対し、ラダーは期待や実績、コンピテンシーのガイドラインといった全ての要件を列挙します。 コンピテンシーのマトリックスは、本人のロールや職務、組織における目標を満たすうえで欠かせない行動やスキルを列挙します。
レベルの進み具合
レベルの進行度における各セクションは、その肩書を持つエンジニアに求められる要件について簡潔な定義を提供します。 そこではエンジニアが解決する問題のタイプや、組織の目標や優先度に対して当人の仕事がもたらす影響、一緒に働く他のメンバーにどんな影響を与えているかといった、数々の要素が詳細化されています。 エンジニアレベル1以降は、期間を通じて上げた成果を規模と複雑さの面から詳細化するような、期待される業績の概要を書きました。 そしてコンピテンシーの成長に対する期待内容を設定するうえで、私たちはエンジニアがどのレベルの習熟度に達する必要があるのかを広く概略化しました。
コンピテンシー
レベルの進行度が、特定のレベルのエンジニアになにが求められているかを詳細化するものであるならば、コンピテンシーはいわば、どのようにして彼ら彼女らが期待に合致していると予期できるかを詳細化するものです。私たちは5つのコアコンピテンシー領域の概要を作成しました:
- デリバリー
- ドメインにおける専門性
- 問題解決
- コミュニケーション
- リーダーシップ
この5つのコンピテンシー領域それぞれにおいて、様々なレベルの習熟度に達するのがどのようなことを意味するのか分かるように、コンピテンシーマトリックスは例となるようなリストを提供します。 コンピテンシーの習熟度は累積的です。 すなわち、問題解決において「上級」の人は、「中級」や「初級」の問題解決者が持つスキルと性質を備えていることが期待されます。
私たちの成功を評価する
私たちは、このラダーを2018年の5月に内部リリースしました。 ただ、サイクルの途中で成功の評価のしかたを変更しないことが重要だったので、パフォーマンスレビューのプロセスに対してすぐに変更を加えたりはしませんでした。 私たちは単に、キャリア開発の議論を進める際にエンジニアたちとそのマネージャーたちが活用できるよう、参考資料としてラダーをリリースしたにすぎません。 次のパフォーマンスサイクルが開始した際に、ラダーの詳細をドキュメンテーションやコミュニケーションと融合させはじめ、評価の基準として利用されるようにしました。
今日では、このキャリアラダーはEtsyのエンジニアのキャリア成長の指針となる、主要なツールの一つです。 全社的な調査から取得したデータを活用することで、エンジニアがキャリアの機会をどのようにみているか、またマネージャーがその成長を導く手腕において、有意な改善を見てきました。
プロセスの初めに概略化した理念を思い返すことで、過去の1年半の年月を振り返り、Etsyのエンジニアに起こった変化を認識し、私たちが成功につながると考えた目標と照らし合せてラダーを評価することができます。 ここで、一つ一つの理念と、私たちが各々をどのように達成してきたかを振り返ってみましょう。
エンジニアにとって有意義なキャリアの成長をサポートする
キャリアラダーの内容は、私たちの文化とガイドの原則によって導かれているものの、概してどのコンピテンシーもEtsy特有のものではありません。 コンピテンシーのカテゴリにおける期待、業績、それに「初心者」から「周囲をリードするエキスパート」に至るパスは、エンジニアの影響力の成長を示し、彼ら彼女らがロールやチーム、そして会社にもよらず、自身のキャリアを通じてどのようなことを成し遂げられるかを認識できるように設計されたものです。
またコンピテンシーのマトリックスによって、あるレベル内でのエンジニアのキャリア開発を指導することもできます。 新しいレベルへ昇進することが、時間をかけて期待に合致していることを示す必要のある主要なマイルストーンである一方、いくつかの主要なコンピテンシーに注目して習熟度のレベルを進めれば、たとえ同じレベル内であっても継続的な成長を実証することができます。 これによってエンジニアとマネージャーは、次の昇進に向けた幅広い要件を満たすための計画という達成困難になりがちなタスクに追われる代わりに、そこへ到達するための目標を段階的に設けることが推奨されます。
以前の私たちのラダーに比べ、スタッフエンジニアになるにあたって専門性の幅を広げる必要性に縛られるようなことはなくなりました。 私たちはどの専門領域もたいへんに複雑で、解決しなければならない未知の問題があり、各分野で大いに成功している本人の領域を超えて他の分野へも専門性を広げるように要求することが、エンジニアの成長を制限していたことに気づいたのです。 いまのラダーに概要が書かれた期待内容のもとであれば、エンジニアは現在の領域で思う存分専門性を深められるでしょう。
エンジニアリングにおける期待を統一する
各レベルの定義は、いくつかの期待内容、業績、そしてコンピテンシーの習熟度のレベルに関するガイドラインのみから成り立っています。 読み解くのは易しく、必要になった時にすばやく要求を理解できるよう見返すことができます。 少しの振り返りを行えば、エンジニアは自身のレベルにおける3つから5つの期待内容に対し、自分がどのくらい合致しているかを容易に描くことができるでしょう。
ラダーのリリースに先立ち、これらの定義が組織におけるエンジニアの期待の現実に沿ったものになっているかどうか、全てのエンジニアリング組織のリーダーから同意を得ました。 そしてリリース以来、昇進プロセスをラダーの内容に合わせてきました。 マネージャーに対しては、新しいレベルに必要とされる業績として明記された期間を通じ、候補者がどのようにして期待に合致してきたのかを説明し、提示されたコンピテンシーの習熟レベルを実証できるような実例をもって適格とするよう、要求しています。
有効なキャリアパスの多様性を認識する
マネージャーに対しては、キャリアの進展について語るとき、特定のロールを念頭に置いてコンピテンシーのドキュメントを利用するようお願いしました。 コンピテンシー・マトリックスにおける個々の例は、プロダクトエンジニアやセキュリティエンジニアなど、個別のロールによってどの程度適用可能かが異なってくるものですし、この順応性は、習熟度のレベル定義で合意した振る舞いや結果と足並みを揃えつつも、個々の規律ごとの成長を可能にするものです。 一連のスキルの例は、様々な専門領域におけるコンピテンシーへの適用を、より良くそれぞれの文脈に沿ったものにできるよう、各コンピテンシーのカテゴリ毎に提供されます。 さらに、私たちはあえて、チームや組織の成功に欠かせないコンピテンシーを詳細化していません。
コンピテンシー・マトリックスに内在する柔軟性と習熟度のレベル分けのしかたをマネージャーに受け入れてもらうことで、互いの違いを受け入れてあらゆる形の成功に価値を見出すチームを築きつつ、私たちは様々な形で表れるエンジニアの成長を普遍的に認識できるようになりました。 たとえば技術的なイニシアティブを前に進めるような、特定の分野のスキルが高いエンジニアリング・リーダーや、皆を結びつける役割を担って正しい問題解決に向けチームを調整するような、コミュニケーション能力の高い他のエンジニアリング・リーダーを見出したりすることにより、マネージャーはより多様性のあるチームを成長させることができます。 私たちは、リーダーシップは様々な形態を取ることに気づいていますし、そのことはコンピテンシーマトリックスにも反映されているのです。
成功を認識するにあたり、バイアスの発生する余地を制限する
キャリアラダーは、組織として潜在的なバイアスを和らげる方法のほんの一部でしかありません。 Etsyの人事プロセスやキャリア開発プログラムの他の部分にも、組み込まれたチェックやバランスがありますが、キャリアラダーは他のプロセスを形作るうえで重要な役割を果たすため、私たちはかなり意識的にこの理念へアプローチしています。
コンピテンシーは本人の人格に基づくものではなく、例えば「フレンドリーである」など、人柄や行動に対する主観的な捉え方に基づく内容を取り除くよう配慮しました。 人によって吸収や理解のしかたに差が出ることを減らそうと注力した結果、全ての内容は慣用的な表現を排除したものとなっています。 また私たちは、各々の期待内容に対しカテゴリを定義することによって、レベル間の言葉に一貫性が保たれるようにしました。 たとえば、各レベルにおいてエンジニアが解決することが求められる問題の複雑さを定義することにより、私たちはレベル間で責務の乖離が発生する余地をなくし、以前のレベルからの成長と結び付けられなくなることがないようにしました。
さらには定量化できるような言葉も明確に避けました (例: 2つ以上のカンファレンスに登壇した、等)。 なぜなら特定の数値を達成するための機会は、あなたの役割、チーム、そして個人的な状況により著しく制限されますし、コンピテンシーの背景にある真の意図を汲まないキャリアのアドバイスに繋がってしまうからです。 加えて、たとえば昇進の時などにラダーと照らし合わせて個人を評価することは、数字に要約できるものではないのです。 点数を計算したり、個人をチャートの上にグラフ化するなどということはありませんし、明確に定められたロールやプロジェクトにおける経験年数もありません。 主観性を減らすことが潜在的なバイアスを減らすのに欠かせない一方で、このように凝り固まった数値のガイドラインは、個人のロールに十分な柔軟性を与えず、実際のところ私たちの理念に反します。
もっとも重要なことは、このラダーはEtsyのエンジニア、すなわち個々の状況がいかにしてキャリアの進展に寄与するか、あるいは妨げになるかについて、個人的に実経験を持ったエンジニアたちからのフィードバックを受けて直接形作られたものだということです。
私たちは、Etsyにおけるエンジニアの現在進行形のキャリア成長を支えることに対し非常に情熱を持っていますし、自分たちのミッションを真に支える形でそれを実践しています。 プリンシパルエンジニアへのパスは全てのインターンに対して開かれていると信じていますし、このラダーはそのパスを明確で行動可能なものに落とし込むものだと思います。 このラダーが一つの例としての役割を果たし、私たちが参考にした一連の資料のように、あらゆる場所のエンジニアのキャリアを導く一助となれば幸いです。
もしあなたが、私たちと共にご自分のキャリアを成長させることに興味をお持ちでしたら、ぜひお話がしたいです。こちらをクリックしてください。