私のメガネが年々小さくなり、そして(たぶん)かっこ良くなっているとしても、私は今でも"Nerd Nation"の一員です。したがって私は本をよく読みます。大体年間50冊ぐらい。このゲイツノートでレビューしてきた本の多くは新作が多いです。なぜなら人々は新しい作品に興味を持っていると感じるからです。しかし、実は古くてとても重要だと感じたり価値があると思っていたりする本を読み直す事も好きなのです。スタンフォード大学の心理学者、キャロル S.ドゥエックによる「やればできる!」の研究―能力を開花させるマインドセットの力(原題"Mindset: The New Psychology of Success(2006)")もその一つです。
私が最初にマインドセットに注目するようになったのは、数年前に、私の友人であるネイサン・マイアーボールドと魅力的な教育の再発明について議論していた時の事でした。それはマルコム・グラッドウェルが“In the Air: Who says big ideas are rare?”で述べた内容と似ていました。ドゥエックの研究はその日の私達の考えに大きなインパクトを与えました。それ以来、ドゥエックと彼女の研究は私のその頃からの仲間( my foundation colleagues)と私自身に、生徒たちがどのような考え方を持ち、どのような習慣を持てば、大きな努力なしに学校に通い続けることができるかの理解を深めてくれました。
ドゥエックの論文にはこうあります。私達の遺伝子は、私達の知性と才能に影響を与えるが、これらの資質は産まれた時に決まるわけではない。もしあなたが、地道な鍛練と努力よりあなたの遺伝子と運命があなたの能力を決めていると勘違いしているのなら、あなたはドゥエックのいう「成長型マインドセット」より「固定型マインドセット」に支配されているということでしょう。どちらのマインドセットになるかは両親や先生の影響が強いです。そしてこのマインドセットが私達が日々直面する、どのように学びどのように生きていくかを決断する時、に強い影響を与えます。
実験に次ぐ実験の結果、ドゥエックは「固定型マインドセット」は、自分が才能に恵まれていると思っているかいないかに関わらず、強力な心理的障害になる事を示しました。もし「固定型マインドセット」を持つ人間で自分に才能が有ると思っていた場合、与えられた才能を育てることよりも、検証する事に時間を使う傾向があります。天才としてのアイデンティティを保つために、そのアイデンティティを損なう可能性のある困難な挑戦をしばしば避けます。つまりドゥエックの主張は、“「固定型マインドセット」の考え方だと、努力というのは欠点を持つ人間のする事ということになります…もし、自分を天才や才能に恵まれている存在だと思っているなら、あなたは大きなものを失うでしょう。努力をすることで自己否定してしまうから。”
もし「固定型マインドセット」を持ち自分が遺伝的に劣勢だと思っている場合も、あなたは努力する気を失うでしょう。おそらく、あなたは自分が苦手なのはわかっているし、遺伝的に劣っているという事実は変えられないのに、難しい概念を学ぶ努力なんてする必要はないと思っているのではないでしょうか?私がアリゾナ州にあるコミュニティーカレッジを訪れた時、ある若い男性が私に「私も数学が苦手な人間の一人です」と言いました。このようなことを聞くと、私は打ちひしがれます。もし彼が「あなたは数学を学ぶ才能があります」と聞かされて育ってきたらどれほど違っただろうかと考えさせられます。
これとは対照的に、「成長型マインドセット」の人々は、知能等の基本的な資質は、筋肉のように鍛えることが出来ると思っています。それは、誰もが物理の宿題をやればアインシュタインになれるとか、フェーダウェイシュートを練習すればマイケルジョーダンになれると思ってるという意味ではありません。ドゥエックの言葉を借りると“彼らは人間の本当のポテンシャルは計り知れない。何年もに渡り努力と情熱と苦労を積み重ねた場合、どれほど成長するかは予想できないと思っている。”としています。その結果、彼らはタフな挑戦の機会やチャンスを見つけ出す機会に恵まれるのです。
私がマインドセットを気に入っている理由の一つに、それが解決志向だからというのがあります。本の最後でドゥエックは彼女と彼女の同僚で行っている「固定型マインドセット」の学生を「成長型マインドセット」にシフトさせるために作ったワークショップの説明が出てきます。そのワークショップは、ただ、「成長型マインドセット」が自分たちや自分達の人生に大きな変化を与えてくれる可能性があるという事を実証してくれるだけのものです。
私が唯一この本で気に入らない点は、ドゥエックが一般的な読者に向けて単純化し過ぎている点です。彼女が述べている(論文は別として)印象に反して、我々人間の多くは純粋に「固定型マインドセット」か「成長型マインドセット」に分類されるわけではありません。両方持ち合わせています。私が本を読んでいる時は「成長型マインドセット」になっているでしょう、トランプでブリッジをやっている時のように。そして「固定型マインドセット」になる時もあります、バスケットボールをやっている時のように。
この本の最も良い所は、あなたが自分自身に「どの分野において固定型マインドセットになっているか」と「子供に送るメッセージのどれが間違ったマインドセットと努力の向き先に繋がっているか」を考えさせてくれる所です。ドゥエックの素晴らしい指導のお陰で、あなたはこれらの難しい問題に「成長型マインドセット」で向き合うことが出来るようになるでしょう。